がんと「アドラー心理学」ーリソースフルでいること

宮城県石巻市で、抗がん剤治療を専門にしている大堀ヒサツグさん。
日本では非常にマイナーな腫瘍内科医として、がん患者さんと向き合う中で、
心理学とコミュニケーションを学んで得た気づきをコラムにまとめてくだいました。

第3回はーがんと「リソース」ー。
自分の「リソース」に気づき、「リソースフル」な状態でいること。
医師として、だけでなく、人間としてもより豊かに生きるヒントがあります。

リソースフルとアンリソースフル

「リソース」とは、資源という意味ですが、ここでは私たち一人一人がもっているスキル、能力、知識などのことと思ってください。(病院間のリソースの差に関しては今回は少し脇においておいてください)

腫瘍内科でいえば、抗がん剤の使い方や副作用などの知識がリソースということになると思いますが、コミュニケーション能力もリソースでしょうし、点滴をさすのがうまいなどもリソースになるかと思います。

実際の診療においては、個人のリソースの差はほとんどないか、あってもわずかではないかと僕は考えています。

とはいえ、患者さんの中には、
「私は、Dr.××じゃなく、Dr.○○に見てもらいたい!」とおっしゃる方が時々いらっしゃいます(Dr=ドクター=医師)。
そこの診療科に一人しかDrがいなければ、病院を変える方もいらっしゃいます。

多くの患者さんが、担当医とあわないと感じているけど言い出せないという可能性もあり、このように表現してくれるのは氷山の一角で、多くの方が我慢して付き合ってくれているのかもしれません。

「やっぱり、Dr.××とDr.○○では、そのリソースとやらが違うから、患者さんがそう思うんじゃないの?」
と考えられるかもしれません。

それでも、僕は個人のリソースの差はわずかだと思っています。
では、何が違うのか?

その人が自分の持っているリソースを、
その時使える状態にあるのか? ないのか?
の違いだと考えています。
(これもコーチングの勉強で教わったことですが)

自分の持っているリソースを使える(発揮できる)状態を「リソースフル」
使えない(発揮できない)状態を「アンリソースフル」 といいます。

この「リソースフル」な状態というのは、意識してみると、一日中保つのはかなり難しいことがわかります。
油断するとすぐに「アンリソースフル」になります。

アンリソースフルな状態とは、例えば、急ぎの仕事がたくさんあって、

「どれから手をつけたらいいのか?」

「これ今日中に終わるの?」

「どうしよう?」

なんて一杯いっぱいの時に

「これもお願いしたいんだけど」

と、さらに仕事をお願いされたら
普段ならにこやかに「いいですよ♥」と返事をする方でも、
ムスッとした表情で

「これ以上無理です!他の方にお願いしてください!(怒)」

となっても不思議ではないのはご理解いただけるのではないかなと思います。

いつもは「いい人」でも、アンリソースフルな状態では「いい人っぷり」が発揮できずに、そこの部分だけを見れば「悪い人、嫌な人」になってしまうということです。

Drへの不満は主にどういうところから来るかというと

  • 顔も見ずにずっとパソコンのモニターばかりをみている。
  • 説明が早すぎてわからない。難しい言葉を連呼している。
  • 忙しい、時間がないと常にいっている。それが口癖のようだ。
  • いつも怒ったような表情か無表情で怖い。

いずれもDrに「余裕がない」状況からくるものと思われ、Drがそのときアンリソースフルな状態にあることがうかがえます。
これらの結果、「あのDrとはあわない。別のDrに変えてもらいたい」となってしまうのだと考えています。

「じゃあ、常にリソースフルな状態でいるよう心がければいいじゃん。」
「Drなんだから、医療のプロでしょ!」

と痛いお言葉を頂戴してしまうでしょうが、これがなかなか難しいのです。

リソースフルな状態を作るためにできること

Drとはいえ、人間ですから、嫌なことがあれば落ち込んだり、怒ったりしますし、悲しいときもあれば、何かに悩んでいるときもあります。
常に「うれしい、楽しい、幸せ~~♥」な状態でいることは不可能です(これを無理矢理しようと思うと「ドラッグ」に走ってしまったりしちゃうのかな?)。

中には、病院にいるときはいつもニコニコ「いい人」だけど、家に帰ると黙っているか機嫌悪そうにしているかのどちらかみたいな人もいらっしゃいます。いわゆる「内弁慶、外地蔵」という状態でしょうか。

患者さんにとってはいい医者かもしれませんが、こういう歪な状態って長続きするのでしょうか?
院内でも時々、普段穏やかなDrが急に声を荒げて激怒!なんてシーンにでくわしちゃったりします。
その激怒の矛先になった看護師さんだったり、患者さんだったり、研修医だったりにしたら、もうトラウマになりかねない状況ですね。

「リソースフル」な状態を常にキープするのは難しいので、必要なときに「リソースフル」になれることが大切だと思っています。
とはいえ、これも結構難しい。

  • 怒っている状態から、ゴミ箱を蹴飛ばしてすっきり。その後笑顔(ゴミ箱を片付けるのは誰ですか?)
  • 常にイライラしているけど、患者さんの前だけニコニコ(これは患者さんにはいいかもですが、スタッフにとってはかなり困ったDrです)
  • 怒られて落ち込んだので、明日は急遽休んで回復します(もし回復できなかったらもう来ません?)

いずれも、必要なときにはリソースフルになっているかもですが、これでいいのか?疑問です。
では、どのようにすればいいのでしょうか?

  1. 自分が「リソースフル」な状態とはどういう状態か?を認識する
  2. 何をするとその「リソースフル」な状態に近づくのか?を見つける
  3. 「リソースフル」な状態に近づく行動で日常を満たす

この3つでリソースフルな状態を作りやすくなるようです。
僕の場合は、

  1. リソースフルな状態は?
    すこぶる体調がいいし、気分もいい。何となくウキウキわくわくしていて、今なら何でもできちゃいそう!な状態です
  2. 何をするといい?
    ・しっかり睡眠をとる
    ・笑顔をする、笑顔の人を見る
    ・「お笑い」を見てわらう
    ・好きなマンガを読む 好きな音楽を聴く
    ・運動する
    ・ゆったりとした自分だけの時間をもつ などなど
  3. ②で日常を満たす!
    また、②の状態を遠ざける行動は避けるのも必要かもしれません。
    例えば僕は、「疲れた、忙しい」という言葉を発しない、イライラしている人に近づかない、二日酔いするほどお酒を飲まないなどにも気をつけています。

アンカーリングといって、過去もっともリソースフルだった思い出を臨場感たっぷりに追体験し、その思い出を思い出すとその状態にいつでもなれるようにすることもできるようです。これができるようになるといいですね。

リソースフルな状態であれば、

  • 患者さんの話に耳をかたむけられる
  • 患者さんがわからなそうにしていたら、説明を追加する
  • そもそも理解できていなさそうということに気がつける
  • パソコンには後でゆっくり入力することにして、今は患者さんと向き合う
  • 忙しい状態でも、心はゆったり
  • 朗らかな笑顔

でいることができます。
これくらいできれば、主治医かえてほしいとは言われない?

リソースは誰もが持っているので、後はそれをどれだけ発揮できるかが重要ですというお話しでした。

 


大堀ヒサツグさんのコラム予定

第1回:がんと「アドラー心理学」ー目的論と原因論
第2回:がんと「アドラー心理学」ー勇気づけ
第3回:がんと「アドラー心理学」ーリソース
第4回:がんと「アドラー心理学」ーアサーション
第5回:がんと「アドラー心理学」ー自分軸①
第6回:がんと「アドラー心理学」ー自分軸②
第7回:がんと「アドラー心理学」ー全体論
抗がん剤治療を専門にしている腫瘍内科医です。短い診察時間では伝えきれない、抗がん剤とうまく付き合っていく方法を発信していきます。
このコラムが掲載されている大堀ヒサツグ抗がん剤治療研究所のnoteはこちらからご覧いただけます。

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