森田佳奈子さん(もりかなさん)
国際保健を大学で教えており、途上国や災害時の緊急支援活動家でもある。シングルマザー。
若い頃は阪神淡路大震災の心のケアを担当し、その後もハイチ、赤道ギニア、東日本大震災など、世界各地の緊急支援に携わる。
平本式現場変革リーダー養成コース11期に参加。
本記事は、弊社代表の平本あきおがインタビュー動画を収録させていただき、それを元にまとめた記事です。
私は現在、国際保健の分野を大学で教えています。
そのかたわら、ハイチや赤道ギニアや、その他の開発途上国での活動や、東日本大震災など国内での災害緊急支援の活動など15年ほど続けています。
この記事は、私が、これまでの支援活動での経験から
- 親に捨てられた赤ちゃんの反応と人の成長について
- 途上国で学んだ人との関わり方、サポートの距離感
- 日本での子育てを当たり前と思わない
- シングルマザーでもやりたいことをやる
これらについてお伝えいたします。
日本では当たり前だと思っていることでも、異なる文化に触れると「特別なこと」だったりします。
緊急支援現場では子どもは簡単に捨てられます。
捨てられた子どもの成長過程を通して、日々の子育てや成長の参考になったら嬉しいです。
現地では人が人を簡単に捨ててしまう
自然災害や内戦、紛争の後は、親が子どもを捨ててしまい、災害孤児や戦争孤児、物乞いが多く生まれます。
誰もが自分が生き残るのに必死だからです。
精神障害があったり、感染症などの疫病などがはやったときにも、病名を知らない方たちは「魔術にかかった!」と人を簡単に捨ててしまいます。
私は緊急支援の現場で、人と人とのつながりが失われていく場面を何度も目にしてきました。
元気なのに無反応な赤ちゃん
私たちは支援が必要な現場に入り、孤児や物乞いとなった方の救援や生活支援を行います。
私がハイチや赤道ギニアの孤児院で出会った赤ちゃんには、赤ちゃん特有の「原始反射」が全くありませんでした。
普通の赤ちゃんには、丸いもの=親の目を見つめ、笑い、指を握りかえすといった反射的行動が見られるのですが、孤児院の赤ちゃんたちは、私が抱っこしても無表情で笑わず、視線も合わず、手も握りかえしてきません。
生後すぐ母親に捨てられたため「心の愛着」の場所がなく、大人を信頼できないようでした。
孤児院へ何度か通ううち、私の匂いや声で「安心な人」と分かったようで、少しずつ私の目を見つめ、笑顔を見せ、しがみついてくれるようになっていきました。
本来備わっている「人間らしさ」を少しずつ取り戻していくのです。
途上国では人のつながりが命を繋ぐ
アフリカ、ニジェールなどの国では、今でも1人の母親が7人近く出産しています。
多産多死といい、たくさん子どもを産むが、たくさん死んでいきます。
また、子どもをたくさん産み、育てられなければ簡単に捨ててしまうのが現実です。
「子どもを捨てるなんてひどい」「育てられないなら産まない」という、私たちにとって当たり前の感覚は、その国の教育や文化背景によって育まれるものだと感じています。
途上国や災害の現場でこそ、家族や友達などのサポートや、人と人とのつながりがなければ人は生きていけません。
人を信用しない物乞いと信頼関係を築くために
過酷な環境で生まれ育ってきた現地の人々は、私たち外部の人間を信用していません。
私たちが支援活動をしていると物乞いが来て、からかったりちょっかい出したり、試すようなことをよくしてきます。
彼らは助けを必要としていながらも、私たちに全面的に支配されたくないのです。
私がそんな彼らと信頼関係を築くために大事にしていることは3つです。
①裏切らない
「私は絶対的に信頼できる存在で、裏切らない」
「私はあなたの近くにいるよ」
という思いを、メッセージではなく態度で示します。
私は常に彼らに見られていることを意識して、規律やルールは当然守りますし、
朝一番に仕事場に必ずいるようにしています。
②距離感を大事に
試すような行動をしてくる物乞いには、私からはあえて何も言いません。
でも頼ってきてくれた人にはちゃんと寄り添うという自分ルールがあります。
私は介入者であって当事者ではないので、「やるか、やらないかは、あなたたち次第だよ」と、
距離感を保って構いすぎないように気をつけています。
現地の方のほうが立場が弱いので、私が絶対的優位に立たないようにもしています。
③教えるのは答えではなく、やり方
国際協力の現場では、「魚を与えるのでなく、釣り方を教えよ」という考えを、わたしも大切にしています。
彼らには物を与えるのではなく「やり方」や「作り方」を教えます。
コミュニティの中からキーパーソンになる人を選び、パソコンの使い方、コミュニケーション方法、マネージメント、保健医療の知識や技術、など、そばについて1から10まで一緒にやってみるのです。
言葉だけでなく、背中で仕事の仕方や取り組む姿勢を教えるのは、とても時間がかかりますが、キーパーソンが他の人に指導できるようになると、彼らだけで自走していけるようになります。
全世界共通のマニュアルがあるマクドナルドのように、仕事をパッケージ化するのも有効です。
アプリでタスク管理をしたり、読み書き能力が低い人でも分かりやすいマニュアルを作ることも心がけています。
仕事にはやりがいも必要
いくら仕事を覚えても、挫折感があったり、成果が見えないような仕事は楽しくないですよね。
そうならないよう、ひとつひとつの仕事で、ある程度の達成感を得られるようにしています。
また、医療関係の仕事なので、
「ありがとうって言ってもらうのも楽しみだね」
「やっててちゃんと人のためになってるんだ!」
こんな具合に、患者さんやその家族、コミュニティの人たちに喜んでもらえる「喜びのセット」になるようにも心がけています。
日本の子育てにも通じますね。
- 裏切らない、「ちゃんといるよ」と示す
- でも過剰に手をかけないで距離をとる
- パッケージ化して、ステップバイステップで一緒にやってあげる
- やれた感、達成感を得られる
- 相手に喜んでもらえると自信もついてくる
この流れは、自信のない子とか引きこもりの子に対する接し方でそのまま使えますね。
たくさんの人に育てられた娘
私はシングルマザーで、妊娠中も出産後も支援活動で海外を飛び回っていました。
イギリスで研究生をしていたとき、娘は3歳でイギリスの保育園に通っていたんです。
「女性だから」「母親だから」という枠は私にはなく、
自分が楽しいことをやっていきいきしてたら、子どもも勝手に楽しくなると思っています。
世界のジェンダー意識調査では日本はアフリカよりも低い
世界のジェンダー意識調査では、日本は156か国中120位と、アフリカの諸国よりも低い。
私の実体験から、「子どもはお手伝いさんでも育つし、家事だって女性がやらなくてもいいんだよ」っていつも関わる方に言っています。
私の場合、支援活動と子育ての両立は難しいので、色んな人に頼っていました。
特に、暮らしの中に、子育てのプロのナニー(お手伝いさん)がいると、逆にたくさん教わることができ、職場にはインターナショナルスタッフ、また友人や知人がサポートしてくれ、わたしの娘は周りの方が育ててくださったようなものです。
世界各地で色んな人に関わってもらったからこそ、娘はたくましく、伸び伸びと育っています。
もし今子育て中であれば
日本で子育て中のお母さん、今大変な思いをしているのであれば、どんどん周りの力を借りてください。
子育ては一人ではできません。
私の理想は、子どもをみんなで育てる世界。
日本のお母さんと一緒に子育てできるコミュニティも作っていきたいと思っています。
もりかなさんの話には驚かされることが多いですよね。
このように精力的に世界で支援活動を行っているもりかなさんですが、
平本式で学ぶ以前は、「なぜここまで支援活動に関わり続けるのか」が、もりかなさん自身では分からなかったそうです。
次回は、現変を通して見つけたもりかなさんの「支援活動をする理由」や、もりかなさんの考える「自分らし
い生き方」についてお届けします。
本記事は、平本式現場変革リーダー養成コースを受講した後のもりかなさんのお話しを要約したものです。
弊社代表平本あきおともりかなさんがお話しされているインタビュー動画も下記にございますので、こちらもあわせてご覧ください。
writing by Takaaki Yasui