カウンセリングの技術についてこんな質問がありました。質問の要点は以下のようなものです。
「カウンセラーの解釈を交えずに共感しつつ、もう少し深掘りしたいとき、どのような質問を投げかければよいか」
質問の扱いは案外難しい・・・。使うタイミングや言い方によっては、すぐさま不信感を持たれてしまいます。一方で、相手のことは何もわからない前提に立つ以上、質問せざるを得ない。じゃあ、どうしたらいいでしょう?
信頼関係をつくりながら質問によって深く探索していくには、いくつかコツがあります。今回は質問のやり方について、3つのポイントに絞って伝えていきたいと思います。
- 質問の意図を開示する
- 感情を質問し共感する
- 感情の因果関係を質問で引き出す
やや実践者向けの内容になりますが、1つずつ解説していきます。参考になれば嬉しいです。
①質問の意図を開示する
共感によって信頼関係を築くためには、クライアントがこの場に安心していられることが何より大切です。カウンセラーが何をしているか明らかであれば、クライアントも安心ですよね。(※逆に何をされているかわからないと関係性が途切れやすい)
まずは相談がはじまるとき、クライアントに対して質問の意図を開示し、事前に了解を得ておくと良いでしょう。例えばこのような感じ。
「問題の核心を探っていくために、話の途中でも感情について質問することがあります。よろしいでしょうか。」
こうすることで質問に対する準備ができ、唐突感がなくなります。(※カウンセリングがはじまるときの場作りは超重要!実践コースの初回で学びます。)
カウンセリング中であっても、質問の前に「◯◯の整理のために聴いてもよいですか。」と前置きしてから質問すると相手が混乱せずに済みます。(※この前置きを「質問の棘を抜く」と表現する人もいます)
したがって、質問するときは必ず「質問の意図」が必要で、それをクライアントと共有していきましょう。もし、クライアントが質問を受け付けないくらい感情的になっている場合は、質問はせずしばらく共感を続けましょう。
②感情を質問し共感する
共感のためには、相手が何を感じたかわかる必要があります。具体的な場面の何に反応して何を感じたか、場面の4W1Hとともに感情について質問していきます。場面を聴いたとき先回りして、つい
「それは悲しかったですね」とか、「それは苦しいですね」とか言いたくなりますが・・・ここは、白紙の共感です。「相手が何を感じているか一切わからない」という立場からブレない・・・!ここで質問していくのです。
「そのときどう感じましたか?」(※この質問の意図は相談の最初に伝えている前提。だから唐突に質問して大丈夫!)
そして相手が、「うーん・・・◯◯がほんとうに悲しかった・・・」と言ったときに初めて、「ああ・・・◯◯がほんとうに悲しかったんですね・・・」と共感的に応答するのです。このとき、何が悲しかったか、因果関係がわからない場合があるので、そのときはまた質問をします。
「◯◯の何が悲しかったのでしょうか?」
「◯◯が△△だったのが悲しかったんです・・・」
「ああ・・・◯◯が△△だったのが悲しかったんですね・・・」
という感じです。要するに、共感のポイント(因果関係)が見つかるまで質問していくのです。この過程で”感情”と”出来事”が整理されるうえ、共感も納得感のあるものとなっていきます。相手からすると、自分の感情について深く理解しようとしてくれるのが伝わる感じです。こうして、信頼関係がつくられていきます。共感はさらに「身体感情レベル」で実践していくのが大きな特徴なのですが・・・今回は、質問に焦点を絞ったので別の機会でお伝えできればと思います。
③感情の因果関係を質問で引き出す
具体的な出来事の何に反応してどう感情が動いたか、その因果関係を質問で引き出していきます。輪郭がぼやけている悩みの解像度を上げて、顕微鏡で観察するくらいピンポイントで因果関係を探っていくイメージです。その瞬間、意識や行動に影響するような、気づいていない領域(潜在意識)が明らかになります。これが、深堀りです。
なぜ(Why)の扱いはむずかしい・・・!
感情を深堀りするとき、「なぜ?」と直球で質問したくなるかもしれません。巷でも、”「なぜ?」を繰り返すように”というような教えもあります。例えば、「生きていくのが不安」という悩みがあったとしましょう。このとき、「なぜ、生きていくのが不安なんでしょう?」と問うたらどうなるでしょう?不安な理由を「思いつく」限り話しはじめるかもしれません。しかし「思いつく」ようなことは、すでに意識にあったもので、考えつくされていること。話がとっちらかるばかりで、深まりにくいですし、もしくは「なぜって・・・、不安になっちゃいけないのかよ・・・」と不信感を持たれることもあるのです。
感情の深堀りに「なぜ」を使うのは難しいです。一方、ブレストのように意識にあるアイデアを出し切るときは、「なぜ」は役に立つかもしれません。TPOが大事、ということですね。では、どうやって深めたらいいのでしょうか。
感情が動く場面について質問する
「生きていくのが不安」という問いに対して深めていく場合、例えば次のように質問します。
「どんなとき(4W1H)、生きていくのが不安になるのでしょうか?」
その感情を感じる場面を明らかにするのです。そして生きていくのが不安になる瞬間、何が起こっているか、何に反応して不安になるのかを特定していきます。カウンセリングの目的は感情的な問題解決です。感情的な問題は必ず、日常の特定の場面で起こります。さらにその場面の中でも、感情が大きく動く「瞬間」があります。何らかの刺激に反応し、身体感覚とともに衝動が湧き上がるのです。この瞬間・・・本人が気づいていない深層心理が影響を及ぼしています。それが問題の”核心”なのです。この発見を質問でガイドすることが、カウンセラーの役割となります。
平本式では、深堀りの質問の型が公式化されています。(一部抜粋)
1.主訴
2.場面特定
3.場面化
4.現場検証
5.・・・
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という流れで、抽象的な言葉から具体的な場面の瞬間まで絞り込んでいけるようにシステマチックに構成されています。ひとつひとつの質問は実践コースのスクリプトで学べるので、興味がある方はぜひ参加してみてください!そして、場面特定については無料の勉強会も開催されています。このような機会を利用して学びを深めると良いでしょう。
まとめ
信頼関係をつくりながら深堀りしていく質問のやり方は、以下の3つ。
- 質問の意図を開示する
- 感情を質問し共感する
- 感情の因果関係を質問で引き出す
悩みや問題を深堀りして本当の課題を探り当てるのは、クライアント自身。カウンセラーの役割はガイドです。安心安全の場をつくり、問題の核心に迫っていけるように質問で探索をガイドしていきます。
細かい言い回しや技法は、ぜひ練習会に参加されるか、カウンセリング実践コースで学んでいただきたいです!
西たかお(Nishi Takao ニックネーム:ニシティ)
心理カウンセラー。科学的な人間理解に基づく心理カウンセリングで、5,000人以上の悩みの解決をサポート。うつ、自殺予防、グリーフケアなどの領域の心理カウンセリングを得意とする。
以前は、コミュニケーションが苦手なIT・エンジニア系プレイングマネージャー。様々な問題を1人で抱え込み、身体不調からうつに。死ぬことしか考えられない日々の中で心理学を学び始める。同じ思いを抱える人を支援するため、心理カウンセラーとして活動をスタートし、独立開業。
企業の相談室での心理カウンセラー、コミュニケーション指導や少年院での心理カウンセリング、事故災害後のメンタルケアなども経験。
心理カウンセラーの専門家として、10年以上の経験・実績。
平本式では、心理カウンセリングのスーパーバイザーとして、また、瞑想リトリートの企画・アドバイザースタッフとしても活躍している。
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